2017年2月5日日曜日

Drop Dead Diva season3

かろうじて英語がしゃべれるようになったのは、留学中にはまったTVドラマ The Big Bang Theory に依るところが大きい。帰国後も新作DVDが発売される度に購入している。

でもこのドラマ、舞台がCAL TECHつまり理工学部大学院なので、辞書などで調べても自分にとっては漠然としか分からないネタも多い。そこで英語がもの凄く堪能な友人が面白いと言っていたこともあり、自分にとって最も馴染みのある分野=法律&弁護士ネタのドラマで英語学習してみようと試みた。それがDrop Dead Diva。邦題の「私はラブリーガル」は制作者も視聴者も馬鹿にしすぎてると思う。

シーズン1と2はHULUで視聴したので字幕は日本語オンリー。そうすると細かなところがどうしても聞き取れない。で、シーズン3はDVDを買ってみた。やはり英語学習には英語字幕を見ながら好きな映画やドラマを観るのが一番効率がいい。今も昔も「字幕なしで映画を見れるようになろう!」という英語産業の広告が絶えないが、字幕なしで母語でない映画を観て外国語学習するなんてナンセンス極まりない。TOEICを受ければ毎回満点でイギリスの大学院で修士号を取得されている古澤弘美先生(TOEIC専門塾・英語屋)も、映画やドラマはスラングが多いので字幕なしで聞き取ることなんて自分でもできないと明言されていた。

ここから本題。Drop Dead Divaのシーズン3、第2話と第3話が法律家としては面白い。

第2話は、娘を美容整形外科手術の麻酔事故で亡くしたお母さんが病院を訴える話がメインストーリー。負け筋になってきたところで新たな事実が判明し、主人公ジェーンが天才的ひらめきによって攻め方を変えることによって一発逆転するのがこのドラマの定石。この回は医療過誤訴訟と提起した訴訟(おそらく債務不履行構成だと思われる)を、途中で故意による不法行為に変更して大逆転する。本来、人の身体を刃物で傷つけることは違法なのに、医師が外科手術で人の体を切り刻んでも何故許されるかと言えば、それは本人の同意がありかつ本人にとって有益だから。したがって、本人の同意が欺罔行為(だますこと)によって得られたのであれば、原則に戻って医師の外科手術は民事上違法になり、刑事法の犯罪にすら該当する。この日米共通の法理論を使ったストーリーだった。

第3話はいわゆる神回かもしれない。精子バンクから提供された精子で重度障害を抱える息子を産んだ母親が、その息子の生涯にわたる医療費を得るために精子バンクを訴えるというのがメインストーリー。冷静になって考えると、シンプルというかチープと言っても良いぐらいの話だし、視聴者を泣かせようという脚本家の意図はありありと分かるが、アメリカの俳優たちの力業に耐えきれず、ボロボロ泣いてしまった。契約違反構成をPL法(製造物責任法)構成に変えるのも、それに対して原告である母親が息子を「欠陥商品」として扱うその戦略に同意しないのも、弁護士の感覚からすればありがちといえばありがち。母親役Romy Rosemontと息子役演じる小人症の役者Nic Novickiの演技が、この回を非凡なものにしている。


英語字幕バージョンで視聴すると、日本語字幕で見ていたときに思っていたほど、自分が英語を聞き取れていないことに気付かされた。特に、法律専門用語を調べてみると、アメリカの訴訟にはこんな制度があるのかと驚くことが多い。米国の訴訟制度にはあまり詳しくないので想像の域は出ないが、かの国のドラマの通例に漏れることなく専門家による厳格なチェックを受けている印象があるので、たぶん現実の訴訟制度と大きくはズレていないのだろう。申立をしたその当日に審尋が開かれ、場合によっては結論も出るスピーディーさは、日本の法律家からするとほとんどファンタジーの世界だ。でも、これこそがあるべき司法の姿だと、日本司法に対するオルタナティブを示されているようで、勇気づけられる。

自分の好みからすると、女性視聴者を狙ったあざといほどのうまくいかない恋愛ネタはうざいけど、まあとにかくアメリカ芸能界の底力を見せつけられるような魅力的なドラマです。




</