2017年5月7日日曜日

映画一気観感想まとめ書き

5年ぶりに渡米し、カリフォルニア・バークレー周辺の友人達と旧交を温めてきました。

航空チケット代を少しでも安くするために、留学時と同じくインチョン空港経由のアシアナ航空を利用。長時間フライトのおかげで随分たくさんの映画を視聴できました。ただし、いずれの映画も字幕は中韓国語しかなかったため、英語セリフの聞き取りにはなかなか苦労しました。


「ラ・ラ・ランド」
僕の周りでは概ね男性には好評、女性には不評という感じです。観てみて理由が分かりました。要するに「女々しい」映画です。本質は女々しいのにそれを格好良く気取って作り上げているところがまた、多くの日本の男性の琴線に触れるのでしょう。僕ももちろん、この映画は大好きです。
それにしても主役の二人、ライアン・ゴズリングとエマ・ストーンが本当に魅力的です。あのライアンを観た後では、世のその他の男はすべて路傍の石ころに見えてしまうのではないでしょうか。


「ダニエル・ブレイク」
ケン・ローチの最新作。ずっと観たかった作品なので喜んで視聴しましたが、細かいセリフが全然聞き取れません。不条理な正解で懸命に生きている人々の、1人1人のつながりを描いた映画を字幕なしで観てしまったのは致命的でした。いずれ改めて観直したいと思います。


Sing
子どもと一緒に吹き替え版を観に行って、その完成度に驚くと同時に、原作の英語版も観たいと常々思っていました。フライトの視聴リストに入っていたので喜んで英語版を観たのですが、やはりこれは素晴らしい。2回目で改めて気付く伏線や魅力もたくさんあります。劇中オリジナル曲のSet It Freeを日本語版では長澤まさみが、英語原版ではスカーレット・ヨハンソンといずれも女優さんが歌っていますが、どちらも素晴らしい。そしてクライマックス、気弱な象のロジータがスティービー・ワンダーのDon’t You Worry ‘bout A Thingを見事に歌い上げるシーン(日本語版ではMISIAが歌っている)では、やはり感動しました。数々の選曲といい、Set It Freeのギターソロ部分といい、子どもよりもむしろ僕ら親世代の琴線に響く曲が多いのがこの映画の特徴だと思います。


Hidden Figures
アメリカNASAの宇宙計画に甚大な貢献をしながら、有色人種&女性の2重差別ゆえに表に出ることが許されなかった黒人女性たちが主人公。日本での公開時も邦題は付けられず、そのまま片仮名でヒドゥン・フィギュアズとされたようです。原題のFiguresには宇宙開発に欠かせない数学や計算における数字と人物という意味が掛けられているので(もしかしたらそれ以外にもあるかもしれませんが)、邦題をつけることが難しかったのでしょう。
ハリウッドらしさが良い意味でよく出た映画だと思います。主人公たち黒人女性が差別と障害を、その実力で次から次に克服していく様子がとにかく痛快です。ジム・パーソンズは意地悪な上司役がはまっていなかったように感じましたが、彼女たちに理解を示す素敵な上司にケビン・コスナーを持ってくる分かりやすさがまた僕は好きでした。
辛口批評で知られている町山智浩さんも大絶賛のこの映画、ほんとうに本当に素晴らしい作品です。
【以下、ネタバレ注意】
町山智浩 映画『ヒドゥン・フィギュアズ』を語る
町山智浩と藤谷文子 『ヒドゥン・フィギュアズ』を語る


DENAIL
アメリカの歴史学者デボラ・リップシュタットとホロコースト否定論者デビット・アーヴィングとの裁判闘争を描いた作品。あらすじを見て、長時間フライトで重たい映画は観たくないなと最初は避けたのだけど、先に観たカミさんから「これは着陸するまでに絶対観るべきだ!」と言われて観ました。
英米で2016年に公開されたこの作品、日本では公開まだみたいだけど、ぶっちゃけ大傑作ですよ、これは!!
しかしイギリスのドラマや映画は毎度まいど俳優がすごい。TVドラマSHERLOCKでめっちゃくちゃ怖いモリアーティ役を演じたアンドリュー・スコットが弁護団のリーダー弁護士(ソリシター)を演じ、ハリー・ポッターシリーズでねずみ男役をいやらしく演じたティモシー・スポールが演じるアービングがこれまた素晴らしい。デボラ役のレイチェル・ワイズとランプトン弁護士(バリスター)役のトム・ウィルキンソンという人はいずれも僕は知らなかったけど、2人とも実績ある俳優らしい。まあとにかくみんな凄いんだ。
ストーリーは骨太かつ適度なエンターテインを忘れないイギリス映画らしく、適度にスリリングで適度にテンポが良い。ハリウッドのように派手すぎない演出を俳優たちの実力でぐいぐい引っ張っていくイギリス映画の真骨頂。この事件を知ってる人ならそうでもないかもしれないけど、僕は結末を知らなかったので次々に変わっていく法廷の展開をいちいち楽しめる。
職業柄いちばん関心のある名誉毀損の立証責任に関するアメリカとイギリスの違いについては英語力不足ゆえ聞き取ることができなかったのが残念だけど、ランプトン弁護士がアウシュビッツ現地調査で得た経験を使って一気に攻勢に転じる下りは、やっぱ弁護士は現場が基本中の基本だよなあと唸らされた。
地味な映画で儲からないと配給会社が判断して日本ではまだなのかもしれないけど、これはその内容以上に映画としてのクオリティがとんでもないので、是非ともいち早く公開されてほしい。
【参考】
ヨハンナ比較文化研究所 
『否定』(DENIAL)ホロコースト否定論者と闘った歴史学者リップシュタッツ
KITの海外版映画DVD+Blu-ray


2017年2月5日日曜日

Drop Dead Diva season3

かろうじて英語がしゃべれるようになったのは、留学中にはまったTVドラマ The Big Bang Theory に依るところが大きい。帰国後も新作DVDが発売される度に購入している。

でもこのドラマ、舞台がCAL TECHつまり理工学部大学院なので、辞書などで調べても自分にとっては漠然としか分からないネタも多い。そこで英語がもの凄く堪能な友人が面白いと言っていたこともあり、自分にとって最も馴染みのある分野=法律&弁護士ネタのドラマで英語学習してみようと試みた。それがDrop Dead Diva。邦題の「私はラブリーガル」は制作者も視聴者も馬鹿にしすぎてると思う。

シーズン1と2はHULUで視聴したので字幕は日本語オンリー。そうすると細かなところがどうしても聞き取れない。で、シーズン3はDVDを買ってみた。やはり英語学習には英語字幕を見ながら好きな映画やドラマを観るのが一番効率がいい。今も昔も「字幕なしで映画を見れるようになろう!」という英語産業の広告が絶えないが、字幕なしで母語でない映画を観て外国語学習するなんてナンセンス極まりない。TOEICを受ければ毎回満点でイギリスの大学院で修士号を取得されている古澤弘美先生(TOEIC専門塾・英語屋)も、映画やドラマはスラングが多いので字幕なしで聞き取ることなんて自分でもできないと明言されていた。

ここから本題。Drop Dead Divaのシーズン3、第2話と第3話が法律家としては面白い。

第2話は、娘を美容整形外科手術の麻酔事故で亡くしたお母さんが病院を訴える話がメインストーリー。負け筋になってきたところで新たな事実が判明し、主人公ジェーンが天才的ひらめきによって攻め方を変えることによって一発逆転するのがこのドラマの定石。この回は医療過誤訴訟と提起した訴訟(おそらく債務不履行構成だと思われる)を、途中で故意による不法行為に変更して大逆転する。本来、人の身体を刃物で傷つけることは違法なのに、医師が外科手術で人の体を切り刻んでも何故許されるかと言えば、それは本人の同意がありかつ本人にとって有益だから。したがって、本人の同意が欺罔行為(だますこと)によって得られたのであれば、原則に戻って医師の外科手術は民事上違法になり、刑事法の犯罪にすら該当する。この日米共通の法理論を使ったストーリーだった。

第3話はいわゆる神回かもしれない。精子バンクから提供された精子で重度障害を抱える息子を産んだ母親が、その息子の生涯にわたる医療費を得るために精子バンクを訴えるというのがメインストーリー。冷静になって考えると、シンプルというかチープと言っても良いぐらいの話だし、視聴者を泣かせようという脚本家の意図はありありと分かるが、アメリカの俳優たちの力業に耐えきれず、ボロボロ泣いてしまった。契約違反構成をPL法(製造物責任法)構成に変えるのも、それに対して原告である母親が息子を「欠陥商品」として扱うその戦略に同意しないのも、弁護士の感覚からすればありがちといえばありがち。母親役Romy Rosemontと息子役演じる小人症の役者Nic Novickiの演技が、この回を非凡なものにしている。


英語字幕バージョンで視聴すると、日本語字幕で見ていたときに思っていたほど、自分が英語を聞き取れていないことに気付かされた。特に、法律専門用語を調べてみると、アメリカの訴訟にはこんな制度があるのかと驚くことが多い。米国の訴訟制度にはあまり詳しくないので想像の域は出ないが、かの国のドラマの通例に漏れることなく専門家による厳格なチェックを受けている印象があるので、たぶん現実の訴訟制度と大きくはズレていないのだろう。申立をしたその当日に審尋が開かれ、場合によっては結論も出るスピーディーさは、日本の法律家からするとほとんどファンタジーの世界だ。でも、これこそがあるべき司法の姿だと、日本司法に対するオルタナティブを示されているようで、勇気づけられる。

自分の好みからすると、女性視聴者を狙ったあざといほどのうまくいかない恋愛ネタはうざいけど、まあとにかくアメリカ芸能界の底力を見せつけられるような魅力的なドラマです。




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