2016年2月23日火曜日

「なんでだす?なんでだすのん?」

NHK連ドラ「あさが来た」は、あさのこのセリフをキーワードにすることによって「女はこういうもんだ」「女はこうあらねばならない」といった類いの既成概念には実は合理的な理由がない、或いは時代の変化とともに正当性を失っていることが往々としてあり、その”当たり前”を疑うことが大事なんだというメッセージを主題に据えた、ものすごい意欲作だと思う。そしてその大上段なテーマを嫌みなくストーリー化してのける緻密な脚本と、それをドラマにしてしまう俳優陣その他スタッフの力量と熱意にいつも感銘を受ける。

先日、家庭裁判所で持論を振りかざす裁判官に「なんでですか?」「根拠を教えて下さい」を連発したら、「そんな揚げ足を取るようならもうこれ以上あなたとは話をしません!」と捨て台詞を吐かれて、部屋から出て行かれてしまった。一般的に裁判官は論理構成に(多くの弁護士よりも)緻密な人が多いので、彼女がそこまで自信満々に言うならそれなりの理由があるだろうと思って尋ねていただけで、全く詰めているつもりはなかった。が、そうやって逆ギレした態度を見て「要するに何も考えてなかったんやね」と得心した。

しかし僕ら法律家の商売は”論証してナンボ”なんやから、裁判官のクセにそんなことでキレんなよと言いたい。彼女の同僚の若手裁判官なんてめっちゃ理屈に細かくて、毎回期日で「どうしてこれで不法行為が成立するか分からない」と詰めてくるもんだから、ここんとこ続けて主張の補充をさせられている。「無断で銀行から預金引き出してんねやから普通の裁判官やったら、十分これで不法行為の心証とるで」と心の中で愚痴りつつ、法律家の理屈としては彼の方が完全に正しいので唯々諾々と従っている。要するに彼は、裁判官の中ですら「こういうものだ」とされている既成概念に常に「なんで?」と疑問を持つ人で、裁判官としての職務に忠実かつ誠実な人なのだ。だから、こちらも弁護士として彼からの突っ込みに対しては、内心グダグダ愚痴りつつも自分の至らなさを素直に反省し、真摯に応えざるを得ない。

宮崎あおい氏の類い希なる演技力と美しさに口を半開きにして見とれながらも、常識や既成概念を疑う姿勢を持つこと、「なんでだす?なんでだすのん?」は法律家にとって必須なのだと心を改める毎朝なのであります。


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