交渉で一番難しいのは実は、①交渉相手と最初の接点を作ることだ。
そこをクリアすると次に、②互いの優先順位のズレを探る作業に入る。激しく争ってる当事者間でも、両者の第1優先順位が全く同じでがっちり噛み合ってることは意外と少ない。もし互いの優先順位が全く同じ、例えば互いに金額の多寡にしか関心がなく、かつその金額で折り合いがつかない場合は合意による解決の可能性がないことが判明する。それはそれで1つの結論が出たことになる。
③互いの優先順位にズレがあることが判明すると、そこからがいよいよ交渉の勘所、互いの利益の擦り合わせ作業に入る。擦り合わせ出来れば合意に達するし、そこに至らなければ決裂する。これは当たり前の話。
以上はあくまで一般論。事案と当事者によっては②を丸ごとすっ飛ばして、いきなり③に入れることもある。けど、そこの見極めが難しい。自分から③に入ると、足下を見られて不利な交渉を強いられることもあるからだ。
裁判の場合は、②と並行して、或いは②の前に主張と証拠のぶつけ合いという場面がしばらく続く。裁判所という仲裁者がいるので、主張のぶつけ合いでどれだけ優勢になるかが、③のスタートラインを大きく左右する。訴えた側の原告がここまでで大きく攻め込んでいれば原告に有利なところから③が始まるし、訴えられた被告がそこまでによく守り切っていればその逆になる。
①の場面に先立ち、弁護士が依頼を受けた方が良いか、弁護士が表に出た方が良いかを検討することもある。特に、相談段階で双方の戦略を分析した結果、法的にはこっちが不利或いは全く対等な事案では、法的な土俵での勝負になるとまずいので、弁護士が表に出ない方法を勧めることもある。直近の事案でも、きちんと費用を頂いて國本が表に出て交渉したにもかかわらず何の成果も上げられなかった苦い経験もあるし、相談と助言を繰り返して会社の経営権を取り戻すことに成功したこともある。後者で受任したのは合意書案の代筆だけなので、交渉そのものを受任する場合に比べて弁護士費用はかなり安くなった。依頼者にとってリーズナブルな費用で大きな成果を上げられたので、自分としても満足度が高いし、大きな成功体験となっている。
楽して儲けようとする弁護士の中には、そういうことを全く考えず何でもかんでも受任し、②や③の作業をすっ飛ばす人もいる。そうすると圧力一辺倒になる。もちろん成果は出ない。でも成果が出なかったことは裁判官など第三者のせいにすればいい。圧力一辺倒だと、依頼者の目には弁護士が頑張ってるように見えるので、依頼者の矛先は弁護士には向かない。成功報酬は入らないけど、②③に要する膨大な労力を省くことができるので、受任時に受け取った着手金だけでも割が合うのだろう。
①②③のスキルを体得するために、弁護士は膨大な労力をそれまでに投下してきている。100件あれば100件とも違う実際の事案に①②③のセオリーを応用するには、膨大な労力を必要とする。特に②③の作業では、交渉相手のみならず、自分のクライアントにも繰り返し選択と妥協を迫らざるを得ないので、ちょっと手を抜くとクライアントとの信頼関係が崩れ、その矛先が自分に向くこともある。②③は、とても神経をすり減らす作業になる。でもそれをやり通すスキルと姿勢を持っているからこそ、弁護士は交渉のプロなのだ。最近は、顧問先から都度相談を受け、①②③のスキルと経験を駆使してトラブルの芽が小さいうちにそれを積んでいくことに、弁護士としてのやりがいと喜びを感じることが多い。
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