古今東西のことわざはどれも示唆に富んでいて、ふとしたときに脳裏をよぎるものはたくさんあるけれど、最も出現頻度が高いのがこれ。
「隣の芝は青く見える」
弁護士という職業柄、どうしても人同士の争いごとに首を突っ込むことが多い。解決すれば依頼者から感謝してもらえることがこの仕事の一番の魅力ではある。でもそれは、すでにその起こってしまったトラブルによるダメージを回復あるいは最小化したことに対しての感謝であり、新たなものを作り出したことに対するそれではない。
ストレスがたまってくると、自分以外の職業はすべてクリエイティブな仕事に見えてくる。その最たるものが料理人だ。大好きなお店で目の前に出された美しい料理を含んだ瞬間、口の中に、続けて全身に幸せが広がる。積み重ねてきた技術と知識でこんなにも人を幸せに出る仕事ってなんて素晴らしいんだろうと、目の前の料理人に対するリスペクトが膨らむ。
隣の芝はまばゆいくらいに青々と輝いている。
2016年1月25日放送のNHK「プロフェッショナル」は京都の料理人、石原仁司さん。石原さんのお店「未在」は半年前からでないと予約がとれないらしい。
この番組の中で、石原さんから「お客さんは半年も待って楽しみにして来てくれはるんやから」という言葉がぼそっと出てきた。そのときの顔は決して楽しそうではない。半年間も待ちに待って期待が最高潮に達した状態で来てくれるのだから絶対に落胆させてはいけない、必ず満足してもらわなければならないという決意と覚悟。
交渉や訴訟でも、ここでミスをすると依頼者の人生を左右しかねないと大きなプレッシャーがかかるときがある。そういうレベルのプレッシャーを、この料理人は毎日自分に課しているようだ。
隣の芝は青くなかった。
弁護士は職人だ。一つとして同じ案件はない。すべての案件はオーダーメイドで、それぞれに応じて技術と知識を盛り込み、創意工夫をこらす。クリエイティブネスの方向は料理人とは違うかもしれない。けど、きっちり仕事をやりきったときに目の前のクライアントから直接反応を受け取れる仕事はそうそう多くないわけで、そんなに悪い仕事でもなさそうだ。
隣の芝は青く見えるだけ、自分にそう言い聞かせる。
NHK「プロフェッショナル」第285回 2016年1月25日放送
京都の冬、もてなしを究める 日本料理人・石原仁司(ひとし)
http://www.nhk.or.jp/professional/2016/0125/index.html
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