2016年1月28日木曜日

隣の芝は青く見える

古今東西のことわざはどれも示唆に富んでいて、ふとしたときに脳裏をよぎるものはたくさんあるけれど、最も出現頻度が高いのがこれ。
「隣の芝は青く見える」

弁護士という職業柄、どうしても人同士の争いごとに首を突っ込むことが多い。解決すれば依頼者から感謝してもらえることがこの仕事の一番の魅力ではある。でもそれは、すでにその起こってしまったトラブルによるダメージを回復あるいは最小化したことに対しての感謝であり、新たなものを作り出したことに対するそれではない。

ストレスがたまってくると、自分以外の職業はすべてクリエイティブな仕事に見えてくる。その最たるものが料理人だ。大好きなお店で目の前に出された美しい料理を含んだ瞬間、口の中に、続けて全身に幸せが広がる。積み重ねてきた技術と知識でこんなにも人を幸せに出る仕事ってなんて素晴らしいんだろうと、目の前の料理人に対するリスペクトが膨らむ。
隣の芝はまばゆいくらいに青々と輝いている。

2016年1月25日放送のNHK「プロフェッショナル」は京都の料理人、石原仁司さん。石原さんのお店「未在」は半年前からでないと予約がとれないらしい。
この番組の中で、石原さんから「お客さんは半年も待って楽しみにして来てくれはるんやから」という言葉がぼそっと出てきた。そのときの顔は決して楽しそうではない。半年間も待ちに待って期待が最高潮に達した状態で来てくれるのだから絶対に落胆させてはいけない、必ず満足してもらわなければならないという決意と覚悟。
交渉や訴訟でも、ここでミスをすると依頼者の人生を左右しかねないと大きなプレッシャーがかかるときがある。そういうレベルのプレッシャーを、この料理人は毎日自分に課しているようだ。
隣の芝は青くなかった。

弁護士は職人だ。一つとして同じ案件はない。すべての案件はオーダーメイドで、それぞれに応じて技術と知識を盛り込み、創意工夫をこらす。クリエイティブネスの方向は料理人とは違うかもしれない。けど、きっちり仕事をやりきったときに目の前のクライアントから直接反応を受け取れる仕事はそうそう多くないわけで、そんなに悪い仕事でもなさそうだ。
隣の芝は青く見えるだけ、自分にそう言い聞かせる。

NHK「プロフェッショナル」第285回 2016年1月25日放送
京都の冬、もてなしを究める 日本料理人・石原仁司(ひとし)
http://www.nhk.or.jp/professional/2016/0125/index.html

2016年1月12日火曜日

Native Hawaiian Graduates Wearing Nothing but Cultural Pride 米国NBC報道より

卒業生が壇上でガウンを脱いで伝統衣装のフンドシ一丁になったところ、ハワイ大学の卒業式でスタンディングオベーションが起こったという記事。

ハワイ原住民族の若者らしい鍛え上げられた肉体が、グリーンのフンドシ(maloというらしい)に映えて素晴らしい。

Native Hawaiian Graduates Wearing Nothing but Cultural Prideという粋なタイトルに、記者の心意気を感じます。

http://www.nbcnews.com/news/asian-america/native-hawaiian-graduates-wearing-nothing-cultural-pride-n284426

2016年1月6日水曜日

刑事フォイル FOYLE’S WAR


英国ドラマ「刑事フォイル」ファーストシーズン第2話より、反ユダヤ主義者たちのパーティーシーンでの会話。

 BBCの放送はもはや信じられん。作り話ばかりね。
 ロンドンにはユダヤ人がはびこっている。ホテルもユダヤ人だらけ。ぞっとする。
 マナー知らずで不正ばかり。最低の人種よ。
 新聞社はユダヤ人に支配されている。
 ドイツで迫害されたって自業自得だわ。

あくまでこのドラマはフィクションとはいえ、これらの登場人物たちの発言は、1940年代当時のイギリス社会において実際に流布されていた言説に基づいてい るのだろう。驚くべきは、これらの「ユダヤ人」の部分を「中国人」「朝鮮人」「韓国人」と入れ替えれば、すっかりそのまま現代日本でのそれと同じになって しまうことだ。

イギリスがドイツとの戦争真っ直中であった1940年から始まるファーストシーズン、当時のイギリスに反ユダヤ主義やナチス信奉者もいた一方で、ドイツ系やイタリア系住人に対する排外主義と迫害があったことを描き出している。
原題「FOYLE’S WAR」の「WAR」には、フォイルの本来の職務である犯罪との闘いのほかに、ドイツとの戦争、権力腐敗との闘い、招集された息子を心配する父親としての不安との闘いなどな ど、様々な意味が込められているのだろう。そう考えると、「刑事フォイル」は良く出来た邦題だとは思うが、原題のニュアンスを完全に失ってしまっているの は残念。

それにしても「グランチェスター」といいこの「刑事フォイル」といい、どうしてイギリスのサスペンスドラマはこうも重厚なのだろうか。
俳優がまた素晴らしい。特にこの第2話で反ユダヤ主義者の首領を演じているチャールズ・ダンス(Charles Dance)。Game of Thronesシリーズの冷徹な君主タイウィン・ラニスター役もそうとう魅力的だったけど、こういう威厳のある悪役をやらせるとこの人の右に出る者はいないんじゃないかと思わせられる。

刑事フォイル|NHK BSプレミアム 海外ドラマ - NHK.com
http://www9.nhk.or.jp/kaigai/foyle/