2018年4月9日月曜日

ある強制入院からの開放


ご家族からの依頼で、昨年末ある県で医療保護入院制度により本人の意思に反して精神病院に強制入院させられた方を、今年3月に退院させることが出来ました。

日本には、行政が本人の意思に反して精神病院に強制的に入院させられる制度が2つあります。1つは措置入院、もう一つは医療保護入院です。

実は僕は2010年から、留学中だった2011~12年の中断を経て、現在に至るまで、大阪府知事からの委託を受けて大阪府精神医療審査委員を務めています。

精神医療審査委員は精神医療審査会の構成員です。措置入院あるいは医療保護入院となった人とその家族は、入院処遇の改善や退院(=強制入院の中止)などを求める請求をすることができます。精神医療審査委員会とは、それらの審査を行うところです。

大阪府の場合、請求があると審査会は審査委員2名を病院に派遣し、その患者、家族、主治医らと面談を行います。面談を実施した2名の報告に基づき、5名で構成される合議体がその請求の適否を判断しています。大阪府は他県に比べると比較的、請求が認められて退院命令を下すことが多い審査会ですが、それでもほとんどの請求は却下となっているのが実態です。われわれ審査委員は現行法、現行制度を前提として活動しているわけですが、それでもなお入院医療を柱とする現在の日本の精神医療制度は患者の人権保障との軋轢が強く、おおいに問題があると言わざるを得ません。

ともあれ、概ね月に1度は府下の精神病院を訪問し、月に2度ほど精神科医や熟練ケースワーカーさんと議論を重ねる経験を数年間続けてきたことで、弁護士の割には精神病院の体質や精神医療界の人たちの思考法にはかなり馴染みがある方だと思います。

今回の依頼を受けてまず、その病院を訪問する必要があると判断しました。在阪のご家族から相談を受けた段階では、その医療保護入院が適切なものであるかどうかすら分かりません。ただ、その適否を判断する上でも、仮に退院が適当だとしても病院を説得して退院への道筋を付ける上でも、本人面談とカルテ閲覧によって事実関係や現在の本人の状態を調査し、その病院と主治医の考え方を知ることが不可欠であることを、これまでの審査委員としての経験から分かっていたからです。

とはいえ、病院や医師は弁護士というだけで強く警戒します。それは分かった上で慎重にことを進めたけど、それでもすぐには病院訪問の許可が取られませんでした。それでも何とか自分の経験を総動員して病院を説得し、正月を挟んで1月中旬にようやく病院訪問の機会を得ました。
カルテを検討し、本人や主治医らと面談して得た僕の判断は、医療保護入院を継続する理由など全くないという結論。実は病院側も積極的な入院継続の意思はありませんでした。カルテを読む限り、入院直後から医療保護入院が妥当する事例ではないと病院側も気付いていた節すらあります。
じゃあ、すぐに退院できたかというと、そうは問屋が卸しません。入院時に同意者となった家族親族が退院に反対すると、退院さえようとしないのが日本の多くの精神病院の実態だからです。
今回の件でも、退院にこぎ着けるまでには面談訪問日から2ヶ月もの期間を要してしまいました。それでも退院という結果を実現できたのは、精神病院の体質や精神科医の思考法に精通しているという自分の特殊技能があったからこそだと自負しています。

自分は、諸外国と比べて地域資源が乏しい現状の日本では、何でもかんでも退院させればいいという考え方はしていません。それでもしかし、あまりにも不当な強制入院が蔓延しすぎていると思っています。
ただ同時に、精神疾患や現在では精神医療の対象となっている特徴を持った方(人格障害や発達障害など)のご家族が孤立し、あまりにも強度の負担を強いられているがために、その人たちが精神病院への入院を頼らざるを得なくなってしまっていることも認識しているつもりです。
しかし精神医療審査委員としての業務においてそのような場面に直面しても、大阪府知事から委託を受けているという立場上、その権限を逸脱する行為は厳禁であり、手助けできない罪悪感に苛まれることもあります。
それだけにこの事例では、自分の経験とスキルを全投入して、本人とご家族の役に立てたことに大いに喜びを感じました。これを機に、精神医療に関わって困難に直面している人、特に当事者のご家族のお役に立てる仕事を増やしていきたいと、前にも増して考えるようになりました。



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