2015年12月5日土曜日

「発音は気にせず」は良くない


プレジデントネクストVol.7  1日で、しゃべれる!「英語」



最近流行りのこういう扇情的なタイトルは、それだけでケッて感じで普段なら手にもとらないのだけど、どんなこと書いてあるのだろう、いっぺん見たろうと思って手に取りました(結局引っかかってる?)。
そしたら意外と内容はマトモで、思うところが多々ありました。日本語話者が陥りがちな間違いの解説が充実していて、特に英語初学者にはたいへんお得なムックだと思います。

しかし、最近この手の本によく書いてある「発音を気にしなくていい」という論調には異論があります。



ここに書かれている「発音を気にするな」の趣旨が「発音の悪さを畏れず、どんどんアウトプットしよう」ということなら、総論賛成。でも僕は、未だに日本では英語学習において発音軽視の傾向が根強くあり、それが日本語話者の英語習得をより難しくしていると感じているので、英語学習指南書にこういうことが書かれていることに強い違和感があります。
はじめてNYに行ったとき、道を尋ねてもchurchが発音できなかったために、何を探してるのか伝わりませんでした。バークレーで僕らが住んでいたアパートはHearst Avenueにあったけど、Hearstが発音できないために苦労しました(いまだに発音できません)。英語は日本語と違って同音異義語が少なく、単語が違えば音も違う言語なので、ある程度は相手の予測の範囲内に入る発音ができないと、いくらネイティブでも文脈から予測するには限界があります。ましてや、非英語ネイティブの英語話者には全く通じないでしょう。僕は渡米当初、母音が曖昧すぎて何をしゃべっているのか分からないと指摘されました。その次に苦労したのはLの音です。全部Rになっていると言われました。
日本では発音が酷いのに高いリスリング能力を持っている人も結構いるけど、普通は発音を練習することがリスニング能力向上の近道だと思います。TとかTHとかLとか、日本語に近い音がない音をできるだけネイティブに近い音を出せるように繰り返し練習していると、必然的に日本語の五十音とは全く違う英語アルファベット独特の音を意識するようになるからです。
例えばgirlgirlの音の集合体であって、決してガールやガアルではありません。発音を意識するようになってからLazy Tongue(怠け舌)と呼ばれるアメリカ人ですら、girlcarでもRの音をちゃんと発音していることに気付きました。
それに英語の発音って以外と法則に忠実だから、発音に意識してトレーニングしてると、初見の漢字でも何となく読み方が分かるのと同じように、初見の英単語でも読み方分かるようになりますよね。

あとずっと気になっているのが、個々の単語やアルファベットの発音指南書はあっても、英語独特のリズムでしゃべらないと相手に何を言っているのか伝わらないことを指摘している学習書が、全然見あたらないことです。アルクの教材のように部分的な音の連結(リエゾン)や崩れ(リダクション)を解説したものはあるけど、一つの文章全体、例えば Do you have any idea? をどういうリズムと音程で発音すべきかを解説している市販書を見たことがありません。
英語は日本語や韓国語と違って、常に大きな抑揚とリズムを伴います。人間は予測の範囲内の音しか聞き取れないので、英語ネイティブは英語の音程やリズムと大きく外れた文章は聞き取ることができません。歌詞が合っていても音程が大きく外れた歌い方だと、聞き手は何の歌か分からないのと同じです。そういう意味では英語は、僕のようにリズム感も音程をとる能力も人並み外れて欠けている極度の音痴には、最も修得が難しい言語だと言えるでしょう。
そんな僕が留学前に、たまたま日米英語学院の梅田校を選んだのは福音でした。日常会話で実用的なフル文章約100題を正しいリズムで読めるよう、千本ノックよろしくひたすら発話させる高木先生の授業があったからです。日米は講義の録音が推奨されていたので、渡米後半年くらいはひたすら高木先生の授業を聞きながら例文を口ずさんでいました。

プロのミュージシャンは英語習得が早いと言われるのは、彼らがリズム感と耳から聞こえたままに音を再現する能力に優れているからでしょう。
僕の友人でも英語学校にまともに通うことなく、オーストラリアでしばらく暮らしただけでビジネスで通用するレベルの英語を身につけて帰ってきた奴がいます。ヤツの場合、中高大とまともに英語を勉強してこなかったことが功を奏した面もあるとは思いますが、聞こえたままを真似する素直さと能力がそんなことを可能にしたのでしょう。
ただし、この方法は僕には逆立ちしても真似ができません。リズム感と音程をとる能力が決定的に欠けている上、間違って覚えたカタカナ英語の発音が大量に脳内にこびりついているからです。

友だちへのバースデイカードに「ハッピーバーステイ」と書いていた娘に、妻が「テイちゃうで、デイやで」と突っ込んだところ、アメリカ人の友だちもTV俳優も「バーステイ」って言ってると反論されてたことがありました。
で、試しにbirthdayを実際に発音してみると、確かに娘の言うとおり「バーステイ」になります。Dの音を出そうとすると舌先をしっかり上顎に付けないといけないけど、THでいったん舌先を歯の間に思いっきり突っ込んでいるので、舌をグッと引いて最後のY音に行く前にわざわざ舌先を上顎に持っていくのが面倒だから、上の歯先にちょんと触れるだけのT音に近くなるんですよね、たぶん。

いったん間違った音で覚えてしまった大人には、こんな風に素直に音を聞き取ることは難しい。中学入ったとき、最初に英語を教えてくれた白川先生は英語独特の音を一生懸命教えてくれたけど、思春期満開だった僕ら男子はムダに反発してカタカナ英語まっしぐら。あのとき先生に苦労かけたバチが、今こうしてきっちり当たっているのだと思います。